東京高等裁判所 昭和41年(行ケ)183号 判決
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〔編注〕一 特許庁における手続の経緯
被告は、昭和三十九年十一月四日、原告を被請求人として、登録第五八六、〇四四号実用新案(昭和三十三年二月二十一日実用新案登録出願、同三十八年十一月五日登録)につき登録無効の審判を請求し、同年審判第五、三三三号事件として審理されたが、昭和四十一年九月三十日、「本件実用新案の登録は、無効とする。」旨の審決があり、その謄本は、同年十一月二十一日原告に送達された。
二 本件登録実用新案の要旨
時計機構により電源回路を開閉する受信機のトランジスタ増幅回路において、そのトランジスタの出力側とその入力側との間に饋還回路を接続して発振回路を形成せしめ、該饋還回路を増幅回路に挿脱する開閉器を設けてなる目覚し兼用のトランジスタラジオ受信機の構造。
三 本件審決理由の要点
本件登録実用新案の要旨は、前項掲記のとおりと認められるところ、スイス国特許第二六四、四六八号明細書(昭和二十五年二月二十八日特許庁陳列館受入)には、時計機構により電源回路を開閉する受信機の真空管増幅回路において、別に発信管による発信回路を形成せしめ、該発信管を増幅回路に挿脱する開閉器を設けてなる目覚し兼用真空管ラジオ受信機(以下「第一引用例」という。)が記載されており、特許第一二一、九七五号明細書(昭和十二年五月三日公告)には、真空管ラジオ受信機の増幅回路の出力側とその入力側との間に饋還回路を接続して発振回路を形成せしめ、該饋還回路を増幅回路に挿脱する開閉器を設けたラジオ受信機による電気時計時報装置(以下「第二引用例」という。)が記載されており、本件登録実用新案と第一引用例とは、共に時計機構により電源回路を開閉する受信機の増幅回路において、発振回路を形成せしめ、その発振素子を増幅回路に挿脱する開閉器を設けた目覚し兼用ラジオ受信器である点において一致し、ただ、(1)前者がトランジスタラジオ受信機であるに対し、後者が真空管ラジオ受信機である点、(2)前者がトランジスタの出力側とその入力側との間に饋還回路を接続して発振回路を形成しているに対し、後者が発振管による発振回路を形成している点、したがつて、(3)前者が右饋還回路を増幅回路に挿脱する開閉器を設けているに対し、後者が右発振管を増幅回路に挿脱する開閉器を設けている点において、多少相違するが、(1)トランジスタが真空管と同等の作用をするためラジオ受信機においてトランジスタが真空管の代りに使用されていることは周知であるから、後者の真空管ラジオ受信機をトランジスタ受信機に改変することは容易である。ただし、トランジスタ受信機の方が小型で電力消費量が少なく、起動が早いなどの利点があるが、これらは、いずれも、トランジスタの使用に伴う必然的の作用効果であり、トランジスタを用いると起動が早いため目覚し起動時刻がより正確になるといつても、その差は、きわめて僅少であるから、これを格別の作用効果と認めることはできない。(2)発振回路を形成するのに、増幅回路の出力側と入力側との間に饋還回路を接続することは、第二引用例にも示されているように周知であるから、後者の発振管による発振回路をこのような饋還型発振回路に変更することは何らの考案力を要しない。さらに、(3)前者では上記饋還回路が、後者では発振管が発振回路の形成に不可欠なのであるから、発振回路の閉成開放にこれらの不可欠な素子を挿脱させるようにすることは、当然考えられるところである。しかも、第二引用例に饋還回路を増幅回路に挿脱する開閉器が示されているから、前者のように構成することば、きわめて容易であるといわなくてはならない。したがつて、これらの相違点は、すべて設計上の微差にすぎず、結局、本件登録実用新案は、第一引用例及び第二引用例に示された技術内容から容易に推考できるものというべく、旧実用新案法(大正十年法律第九十七号)第一条の実用新案と認めることはできないから、同法第十六条第一項第一号の規定により、その登録は無効とすべきものである。
〔判決理由〕(本件審決を取り消すべき事由の有無について)
二 原告は、本件審決は、本件考案が、その要旨とするような構成をとつたことにより、優れた作用効果を奏するものであることを看過し、本件考案をもつて第一引用例及び第二引用例に示された技術内容から容易に推考しうるものであるとした点において、判断を誤つた違法のものである旨主張するが、この主張は、以下に説示するとおり、理由がないものというほかはない。すなわち、第一引用例及び第二引用例に開示されている技術内容、これらと本件考案との一致点及び相違点が本件審決認定のとおりであることは原告の認めて争わないところであり、その相違点についてみるに、本件考案の出願当時、真空管の代りにトランジスタを用いたコード不要、軽量、小型電力消費量の少ないトランジスタラジオが周知であつたことは原告の自認するところであるから、第一引用例の真空管ラジオ受信機をトランジスタラジオ受信機に改変することは、当業者の容易にできることであり、コード不要、軽量、小型、電力消費量が少なく、作動が早いなどいう特徴は、トランジスタを使用した場合必然的に生ずる作用効果であるから、格別のものといいがたく、発振回路、饋還回路に関する本件考案の構成も、第二引用例に開示された技術内容と比較した場合、単なる設計上の微差とみるを相当とすること、まさに本件審決がその理由において説示するとおりである(前掲「本件審決理由の要点」の項参照)。
原告は、本件審決の認定ないし判断を非難して、
(一) 本件考案は、ラジオ受信機の作用と目覚しの作用とを兼ね備え、本件審決認定の利点のほか時と所を問わず随時随所にこれを使用しうる点において優れた作用効果を有するものである旨主張するが、このような効果も、所詮は、トランジスターラジオ受信機(それが本件考案出願当時すでに周知であつたことは前示のとおり)のもつ一般的使用面での効果にすぎないというを相当とし、また、
(二) 本件考案をタイマーとして使用した場合正確にその作用を果たす旨主張するが、本件考案がタイマーに関するものであることを認めるに足る何らの証拠はないばかりでなく(本件考案の説明書にその説明のないことは原告も自認するところである。)、タイマーにトランジスタを使用した場合、真空管式に比し、その作動が敏速であり、したがつて、正確性に勝ることは、トランジスタと真空管との周知の一般的性能に徴し、容易にこれを首肯しうるところではあるが、これまたトランジスタの採用に伴う必然的機能に他ならないから、これをもつて本件考案の格別の効果といいえないことは、前説示に徴し明らかなところというべく、したがつて、原告の右主張は、いずれも採用に値しない。
(むすび)
三 叙上のとおりであるから、その主張の点に判断を誤つた違法のあることを理由に本件審決の取消を求める原告の本訴請求は、理由がないものというほかはない。よつて、これを棄却する。
(三宅正雄 中川哲男 武居二郎)